Finance Record

一旦理由があって廃止したFinanceRecordを復活させています。企業のビジネスモデルとファンダメンタルズを紐づけて分析しています。

Appleの財務分析② P/Lから見る、Appleが事業の転換点にいる理由

今回はアップルの2020年度決算のPLから、アップルが事業の転換点にいるという事について見ていきたいと思います。

 

決算書は基本的に全部英語ですが、適宜グラフ化したり、翻訳しながら進めて行きたいと思います。以下目次です。

 

AppleのPLの全体像を確認 

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10-K(日本でいう決算報告書)

https://d18rn0p25nwr6d.cloudfront.net/CIK-0000320193/7b5717ca-6222-48e6-801c-9ea28feeef86.pdf

 

まず全体像をざっくり把握しておきましょう。

2020年。売上は274,515Mドル。粗利は104,956Mドル。事業利益が66,288Mドルで、当期の純利益は57,411Mドルになります。

 

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利益率ベースでグラフ化するとこのような形です。iPhoneの販売がメインの企業ではありますが、最終の利益率は21%。

 

物凄い利益率になっていますね。ただし、この利益は、前回の記事で見たように、株主に流れて行っています。ここは将来の成長という点では個人的には大きな懸念点であり、株主にすると魅力的な点だと言えるでしょう。

 

何故アップルが事業の転換点なのかは、売上構成を比較すると見えてくる。

さて、全体を通してみると、アップルは利益率が20%強。十分な利益率がある事が伺えます。しかし、アップルは事業の転換点にあると言われています。

 

その理由は、売上の構成から見えてきます。アップルの売上の推移を見てみると、アップルの2020年売上は、過去3年で最高額です。これは、製品売上が伸び悩みつつある中、サービス面の売上が伸びてきている事が原因になります。

 

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商品売上が伸び悩む中、サービスの売上が伸びてきて総売り上げを維持


もう少し具体的に、売上の内訳を見てみましょう。

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iPhoneの売上は3年連続減少

少し見方が変わりますね。アップルは、主要な製品であるiPhoneが3年連続で売上減になっています。この原因は明らかに中国市場での売上が減少している事にあります。

 

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中国での売上減少が響く

地域別の売上を見てみると、3年連続で中国での売上が減少している事が見てとれます。この中国での売上の減少は、そのままiPhoneの売上の減少として捉えられるでしょう。そして、アップルはその売上の減少を今後回復に持っていく事ができるのかと言うと、若干厳しいのではないかと考えます。

 

これは中国と米国での政治的な争いがあるのもそうですが、純粋にファーウェイやシャオミといった、中国企業の台頭も原因と言っていいでしょう。

 

 

中国は人口的に見ても圧倒的であり、米国やヨーロッパと比べ、コロナから経済活動を回復させている、モノを販売する企業にとっては魅力的な市場です。しかし、直接競合のファーウェイは中国企業であり、争う土壌としてはそもそも不利なうえに、iPhoneに比べ、高スペックで安価な製品を提供しています。

 

そして、今後そのスペックはどんどん広がっていくリスクがあります。

ファーウェイや、サムスンなどのライバル企業と比較してみると、アップルは稼いだ粗利額と比較して、研究開発費の額がほぼトントンです。

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Appleは粗利額が大きいが、研究開発費の額は最も少ない

後で説明しますが、これはいつでも研究開発費の額を増やす事ができることを意味するのではありません。アップルは恐らく、研究開発費をこれ以上激増させることはできません。

 

一方、ファーウェイにはそれが可能なのです。今後ファーウェイの売上が伸びれば、この研究開発費が増えていき、結果としてアップルが対抗できないような製品やエコシステムを構築するかもしれません。

 

政治の問題もある中で、中国でのビジネスはそもそも今非常に難しいと思います。そのなかにおいて、アップルは直近で発表されているような、iPhone12シリーズで今後中国の売上を回復させる事ができるのか?少々疑問符が残ります。

 

このような背景から、アップルのビジネスモデルは「SaaS Plus A Box」へ

そして、このような流れを背景として、アップルは2019年にはハードではなく、サブスクリプションに主軸を置いた発表を行いました。

 

アップル、「サブスク」に軸足 各デバイスOS刷新

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45695190U9A600C1TJ2000/

 

 このサブスクに軸足を置く戦略は、二つの効果が期待できます。

 

一つは単純に、サブスクによる売上及び利益の増加。サブスクのサービスは基本的にデータですので、投資がひと段落すれば高利益率が見込めます。

 

もう一つは、iPhoneから別端末に移る事を防ぐ事。サブスクで便利なサービスの恩恵を受けたユーザーは、他の端末に移るスイッチングコストが跳ね上がります。その為、アップルの新製品が出ると、それを買い続けざるを得なくなります。

 

中国での売上が減少している事。iPhoneの売上が減少に対する打ち手として、「そもそも他企業の端末への乗り換えを防ぐ必要がある」と考えた時には、このサブスクへの移行は割と効果的な打ち手であるように思います。

 

実際に主力のiPhoneの販売が減ってきていますしね。そして、直近ですが、アップルは新たなサービスを打ち出してきました。それがAppleOneです。

 

AppleOneは、AppleMusic、AppleTV+、AppleArcade、iCloudというサービスを、一括で利用できるサブスクリプションサービスです。

 

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サブスクリプションサービスを一括で利用できるAppleOne

https://www.apple.com/jp/apple-one/

 

普段使いされやすいこれらのサービスを、一括で纏めて利用できるサブスクリプションサービスの提供は、アップルのサービス部門の売上を押し上げる効果が期待されます。

 

アップルがサービス部門の拡充を推し進めるとすると…

さて、アップルがサービス部門の拡充を推し進めていく事は明らかですが、今後はどのような方向性での拡充が行われるでしょう。

 

最も可能性が高いのはM&Aです。アップルは短期的にも利益を大幅に出すことが求められる為、恐らく自社でその稼いだ利益を今以上に研究開発費に投じ、自社でじっくり製品をつくり上げていく事は不可能です。

 

なぜそう言い切れるかと言うと、競合他社と決算を比べてみた時に、明らかに株主還元の額が大きいのがアップルだからです。(詳しくは前回の記事をご覧ください)

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スマホ販売の大手の中でも、アップルは突出して株主還元額が多額

他企業と比べ、いかに株主還元の金額が大きいかよく分かりますね。それに比べて、研究開発費はトントン。これでは自社で新商品の開発をじっくり行うという体制は構築できないでしょう。

 

ただ、アップルには潤沢な資金があります。先ほどの2社と比較しても、圧倒的な現預金を保有している事が分かります。

 

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高い利益率を背景に、保有資金額は非常に潤沢になっている。

この資金を、M&Aに回すのか?調べてみると、2019年の時点で大型買収の噂がありました。それはDISNEYとNETFLIX。いずれも配信サービスに強みを持つ2企業です。

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サブスクを強化したいアップルにとって、NETFLIXシナジーが見込めるが。

https://moon.publicdomainq.net/201805/12o/publicdomainq-0021964toqcyd.jpg

 

アップルはAppleTV+をリリースしていますが、このサービスはAmazonのプライムビデオにも、ネットフリックスにも、ディズニー+にも現状劣っています。NETFLIX強いオリジナルコンテンツ。ディズニーは多くのファンと強力なブランド。そしてHuluも保有しています。どちらも実現すれば、非常に効果的な打ち手にも見えます。

 

本当にこの2社が候補に挙がるか。本当にこの会社を買収できるのかは別にして、このまま株主還元を続け切るよりも、このようなシナジーの高い企業を買収するという方向性がいいのかもしれません。

 

次回は、このような大型M&Aが本当に可能なのか?について、BSの視点から見ていきたいと思います。