2020年に上場した米国株のROOT。財務的には一切信用できないが果たして!?
今回はザックリ自分の財務分析を行います。
対象企業はROOT株。2021/1/1時点の目線で、2020年にIPOして、その後一気に株価が下がっている企業です。財務的にはまだまだ一切信用はできないのですが、成長率等々を見ていると、割と優良企業なのでは?と思うようになりました。という事で、1月16日に記事を加筆しています。この企業は今後も見続けていかなければなりませんね。
ROOTの財務分析、財務的には現在特に強い会社ではないが…
ビジネスは自動車保険事業。自動車保険事業は市場がかなりでかいですね。
毎年2600憶ドル以上の売り上げがあるようです。
とはいえ、ROOTはこの市場の中でかなり新興企業ですので、まだまだ立ち上がってくるのは時間がかかるようです。
こちらはROOTのPL。9か月の累積での売上は183.7M$→295.9M$と大きく伸びていますが、それ以上に費用の伸びが大きく、累積では赤字が拡大しています。Net lossは229.7M$。つまり、1$100円換算として、229億7千万円の赤字を計上しています。
そのメインはLoss Adjustment Expenses。米国の保険用語で、損害調査費ですね。保険請求の保険会社の支出合計とのこと。保険会社としては、この部分の計上はやむをえない部分ではありますが、今後も安定して計上される項目であることを考慮すると、全体の収入以上にこの部分のロスがある事は気になります。
Loss Adjustment Expenses(損害調査費)
保険金請求についての損害調査および支払いのための保険会社の支出合計で、裁判所における争訟費用を含む。
この部分が、実際に事業にどれくらいのインパクトがあるのでしょうか。キャッシュフローを、2019年の9か月分及び2020年の9か月分を見てみましょう。
営業活動のCFを見る限り、PL上の損失よりもCFは改善していますね。ただ、2019年2020年ともに、回復したメインは損害調査費の費用計上分のみですね。これは、費用計上が確定していますが、まだ出金がないというだけの話です。ROOTのビジネスモデル特有の優位性という訳ではなさそうです。
2020年にはReinsuaranceが大きなインパクトを与えています。これは保険会社が購入する保険で、元受けの保険会社が引き受けたリスクの一部を引き受ける形で保険料を受け取る仕組みです。
Reinsurance(再保険)
保険会社が購入する保険。再保険会社は元受保険会社が引き受けたリスクの一部を引き受け、保険料の一部を受け取る。再保険は保険会社の資本を増加させるのと同じ効果を持つので、より多くのカバーを提供するための(引受)キャパシティが得られる。再保険ビジネスは国際的であり、大手再保険会社の中には米国外に本拠を置くところもある。再保険会社にも再保険会社が存在し、彼らは再々保険会社(retrocessionaires)と呼ばれる。再保険会社は元受保険会社の契約者に(直接)保険金を支払うのではなく、保険会社が支払った保険金を補償している。
こちらに関しても、ROOT特有の事業の優位性を示した数字ではなさそうです。
ROOTのビジネスモデルの優位性はデータ分析による最適な保険料の提案
財務的には、まだROOTのビジネスモデル上の優位性は見受けられません。というより、財務的にはCFがガンガン減ってきているので、今後まだまだ成長過程にある企業なのかなという印象を受けます。
今後収益とともに損害調査費が伸びていくのであれば、利益が出るほどに伸びていく前にもっと資金を調達していく必要があると思います。
一方、確かにROOTのビジネスモデルの優位性は見受けられます。ROOTのLetter to shareholdersを見てみましょう。
これによると、ルートは旧態依然とした自動車保険業界に対して、機械学習とデータ分析によって革新を起こそうとしています。自動車保険は、政府が加入を義務付けている業界であるため、消費者が価格設定に関与できない問題があるといいます。
そこに対してROOTは、デバイスを駆使することによって運転状況を把握し、そのデータを用いて、より安全な運転をする顧客にはより安価な保険料を提案するという方法で確信を狙っています。
ROOTの強みは、そのデータを他企業に比べてより多くのデータを収集できることでしょう。既存の大企業は、この方法を採用することができません。なぜなら、自動車保険の契約数が既に大規模となっており、これらの契約をすべて見直すという選択は、全体として保険料の額が減少してしまい、大規模な損失のリスクを孕んでいるからです。
このことから、ROOTがこの業界で勝負できる可能性は、定性的には十分にあると思われます。ただ、財務数値的にはその優位性はまだまだ表れていません。
その優位性を表す部分はPremiums in Force
さて、株主のレターを見てその優位性を見てきましたが、これは開示されているデータのKey Performance Indicatorsに現れてきます。いわゆるKPIですね。
このKPIの中では、Policies in Force(契約者数)、Premiums per Policy(契約ごとの保険料)などが開示されています。
この中でかなり大きな伸びを見せているのがPolicies in Forceで、契約者数の事です。ROOTのような新興の自動車保険の会社が、保険加入者数の合計で前年比で+35%も増加しているのは恐らく上記のビジネスモデルが支持されている為でしょう。
契約者もテキサスが最も多く、次はその他地域、3つ目にジョージアと続きます。分布を見ていると割と南が多い気がするのですが、人口が関係しているのでしょうか。しかし、他はそれなりに分散されている印象を受けます。地域ごとではなく、ROOTを支持する人は確実にいるという事なんでしょうね。この部分の推移も、今後見守っていきたいと思います。
背景にはドライバーたちの不満が?
さて、この数字が伸びているだけではなぜ伸びているのかも分かりませんし、今後伸びていくのかもわかりません。それだとあまり意味がないので、「なぜ伸びているのか?」という部分についての背景を探ってみました。
すると、アメリカでは(日本もだとは思いますが)自動車保険が不当に高すぎる!という不満が根強く存在しているようです。
6つのキーがあり、
①85%の人々が、車の所有は必須だと考えている
②77%の人々が車の保険は負担が大きいと考えている。そのうち35%の人々が、保険料の負担が重く必需品を買えないと訴えている。
③66%の人々が、保険料のキーになるものがクレジットコストであることを知らない
④そのクレジットコストは、運転記録、運転歴、走行距離で測られる
⑤63%の人々がクレジットコストで保険料を決定するのは不公平であると考えている。
⑥93%の人々が、バイアスのかかった値決めを排除することが重要であることに賛同する
となっています。
なんというか、上手だなあという印象を受けます(笑)
要はこのRootという企業は、自動車保険に対する苦痛を、テクノロジーの力を使って解消しますと言っているんですね。どれだけ車を乗ったかは関係がなく、あなた自身の運転の仕方で保険料は決められるべきです!と。
これに同意しない人は少ないと思います。顧客の痛みを言語化できるっていうのはかなりの強みですよね。
しかも、アメリカってこんなに車を所有したい人が多いとは思っていませんでした。(このデータ自体がバイアスがかかっている可能性がありますが、、、)
土地がでかい分、やはり必須になってくるんでしょうね。先にみたように大企業は簡単にこのような仕組みに移行することはできないはずなので、かなり戦略の筋としてはいいように聞こえます。
今後、業績がどうなるのかはさすがにまだわからないが、確認したい指標5つ
本来であればLTV/CACでユニットエコノミクスまで分解していきたいところですが、暦年の決算データがまだないためになんとも言えません。
今後、ROOTの業績をチェックするとしたら、
①契約者数
②契約者に対する変動費
③顧客単価
④顧客継続率
⑤顧客獲得コスト
これらの数字を拾っていく必要があるかなと思いました。
現在は①、それとPLから⑤のみが拾えますね。しかし、現在発表されている決算書がQ3のものですので、一人当たりのマーケティング費用は正確には出ないのではないかと思います。
これらを今後チェックし、旧来の企業と比べて高いパフォーマンスを発揮できるのであれば注目に値するのではないかなと思います。
個人的には短期~中期的には持っていても、長期的にはほぼ持つことはない。
さて、今まで財務を中心に分析を行ってきましたが、個人的には短期~中期(1年~10年)では持っていても、長期的(10年単位)には持つことはないかなと思います。理由としては、財務的にもトップラインである売り上げは伸びていても、利益が確保できるようになるためにはもう少し時間が必要そうであるが、世の中の潮流は自動運転が避けられないという事です。
自動運転にはEV化。このEVは世界ではどんどん伸びてきています。米国、中国、欧州はもちろん、日本においてもEV化は政治的な視点から推し進められています。AIもどんどんと発展するのでしょう。そうなって、自動運転が達成したらどのようになるのでしょうか。自動車保険の市場は、どんどん衰退していくのではないでしょうか。
ROOTの肝は、自動車の運転中のデータを独自の技術で収集し、より合理的な保険料を提案するというものです。このビジネスモデルは、基本的には、AIが自動運転を完成させてしまえばお払い箱になるはずです。そうなった時に、ROOTは別事業を展開するほどの体力と能力のキャパシティを有しているのでしょうか。
この点に関して、私個人としては、自動運転が確立する方が可能性が高いのではないか?と考えています。特に際立った知識があるわけではないので、可能性の話ですが、世界の動きはEV化、自動化に向かっているのでは?と思います。
という事で、ROOTは短期~中期で持つ分にはありかと思いますが、長期では私は持たない企業かなと考えています。特に投資を推奨するものではなく、私の投資の意思決定の思考開示であることだけご留意ください。