Finance Record

一旦理由があって廃止したFinanceRecordを復活させています。企業のビジネスモデルとファンダメンタルズを紐づけて分析しています。

ARK社購入のPACCAR(PCAR)、どんな企業なのか?破壊的イノベーションとは??

今回はPACCAR(ティッカーシンボル:PCAR)について見ていきたいと思います。

PACCARはトラック、部品、金融サービス事業を運営する企業です。簡単に紹介文を見ていきましょう。

 

トラック事業は「Kenworth」、「Peterbilt」及び「DAF」というブランドで軽・中・大型トラックの設計・製造・販売を行う。同社はまたミシシッピ州のコロンバス、オランダのアイントホーフェン、ブラジルのポンタ・グロッサにある施設で同社のトラック用エンジンを製造する。部品事業はトラックと関連商用車のアフターマーケット部品の販売を行う。金融サービス事業は顧客・ディーラーに提供される金融・リース商品とサービスを提供する。他の事業は産業用ウインチの製造とマーケティングを行う。同社はオーストラリア、ブラジルにおいて運営して、アジア、アフリカ、中東及び南米の顧客にトラック及び部品を販売する。   パッカ―は米国の大型トラックメ―カ―。「ケンワ―ス」、「ピ―タ―ビルト」、「DAF」のブランド名で大型ディ―ゼルトラックを展開。欧州で「DAF」ブランドの小・中型のキャブオ―バ―型トラック、「ブレイデン」、「カ―コ」、「ギアマティック」の名前で産業用ウインチを製造。北米、欧州、オ―ストラリアで顧客、販売代理店向けに融資、リ―スを行う。   

http://nasdaqchart.com/nasdetail/PCAR

 

個人的には全く知らない企業でしたが、実は2019年は売上が2兆5953億円ある、北米でのシェアが2位の巨大企業です。

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https://www.paccar.com/media/3073/4q20-investor-presentation.pdf

 

 それでは目次です。この記事は投資を推奨しているものではなく、あくまでも自己が投資をするかの観点で分析を行っているのでご了承ください。以下が目次になります。

 

 

業界の規模としては世界では2546万台(世界生産台数、全サイズ、2018年のデータ。日本自動車工業会より)ある、なかなかの市場規模を持つ企業でもあります。

 

で、何故今回この企業に着目したのかと言うと、ARK社の購入リストに名前が上がったからなんですね。現在モビリティはCASEの時代と言われている通り、業界変革の真っ只中です。この企業も当然、ただのトラック企業では無いのではないか?と思い分析をしてみたいと思います。

 

PACCARの株価と過去トレンドを分析

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現時点でのチャートはこのような感じです。安定的に右肩上がりになっていますね。さて、この企業は今後も株価が上がり続けるのでしょうか。

 

まずは過去の業績トレンドと株価の推移を比較して、今の株価が何を織り込んでいるのかを考慮します。株価に影響を与える重要なポイントを明確にして調べる事を絞り込みましょう。

 

最初に長期トレンドを四半期ベースで見てみます。

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一時Revunueが大きく落ち込んでいる期は2020/4/1~2020/6/30の期間です。つまり、コロナの影響で、多くの企業の業績が落ち込んで、設備投資を行う事が出来なかったという事でしょう。この売上の減少はPACCARの問題ではなく、売上や事業利益はしっかりと稼ぎ出す事が出来ている、非常に優秀な企業という事が出来ると思います。

 

ビジネスモデルを売上構成で確認

一点注目点としては、2020/6/30において、売上が大きく下がったのに、Operating Incomeが赤字となっていない所です。この企業はトラック、部品、金融サービス事業の運営ですが、このビジネスモデルも数字で見てみましょう。

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通常はトラックの販売が売上全体の75%を占める企業ですが、トラック売上減少に対して、Financial Serviceがその売上を維持していた為、ここでブレーキがかかっています。利益率もかなり高いので、そうそう赤字になりにくいという事が伺えますね。

 

しかし、ここで問題が発生します。コロナ前は売上が順調に伸び、利益もしっかりと上がっていっているのですが、それに株価が反応しないのです。

 

PACCARの業績と株価は連動しない!?

そう言い切る根拠を書いていきます。

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これは、PACCARの1997年~2019年の売上と株価の関係です。単回帰分析で0.6889と、約20年という時間軸を取った場合、売上の伸びに従って株価は相関するという事が出来ます。

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もう少し時間軸を狭めてみましょう。2009年~2019年の売上と株価の相関関係です。すると、0.33と、相関関係が見られなくなってしまいました。これは時間軸を短くすればするほどこのような現象が起こってきます。また、四半期ごとに分析してみても、同じようなデータとなります。

 

これは、売上だけでなく、Operating Income、FCF、Operating Cash Flowなどで見ても同じです。

 

つまり、PACCARの株価は、特に短期で見ると、業績とあまり関係がなく推移しているのです。

 

ではなぜ、ARKはPACCARに投資をしているのでしょうか。2月の相場が不安定だから?これはあるかもしれません。しかし、それだけでこのような企業に投資するとはとても思えません。なぜなら、今車やトラックの産業は正に大変革期。CASEの波が押し寄せてきており、今までの勝者が、その強みを切っ掛けに一気に敗者まで落ち込んでしまう可能性を秘めているからです。

 

ARKが破壊的イノベーションに対して投資をするという事を考えると、ARKは、PACCARがこのトラック産業の破壊的イノベーションを実装できるのでは?と考えているように思えます。確かに、自家用車の産業においてはTesla,NIOだけでなく、全車両をEV化すると宣言したGMなどは株価を伸ばしています。トラック自体も難易度の差はあれ、課題や必要なてーはま同じなので、同じ構造を持っているとすれば、現在この企業の株価を上げるキーになるモノは、破壊的イノベーションをPACCARが起こせるのかどうかです。

 

破壊的イノベーションの裏付けになる発表はあるのか?

さて、今時点で車産業における「破壊的イノベーション」といえば、CASE以外において他にないでしょう。PACCARのプレゼンテーションを見てみると、非常に面白いスライドがいくつかありますのでご紹介します。

EV自体の製造とそのスペックとは

 

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https://www.paccar.com/media/3073/4q20-investor-presentation.pdf

まず、2021年Q2から、EVのトラックの生産を開始したと書かれています。このトラックは、いずれもKenworth、DAFなどの、PACCARの主力商品も含まれています。この様なトラックが、既に生産を開始しているという点は非常にいいアクションであると思います。

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https://www.paccar.com/media/3073/4q20-investor-presentation.pdf

 

これによると、電気自動車の為に充電ステーションを導入したとの事です。ケンワース、ピータービルド、DAFや、他のブランドとの互換性があるとの事です。これらの電気トラックは、急勾配を登る際にも優れたスピード性を持って走ることができると述べられています。そして、Faith Technologies や Schneider Electricと提携して、電気トラックを購入する顧客に充電のインフラの提供も行うようです。

PACCARは自社でトラックを製造し、販売までを担っている為、やはりトラックの性能において不安視する部分は無さそうです。

 

自動運転のシステムが非常にいい所と組めている。

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https://www.paccar.com/media/3073/4q20-investor-presentation.pdf


 

さて、このスライドが非常に非常に画期的ではないでしょうか。2021年の1月において、PACCARはAuroraと自立型のトラック(ピータービルト579とケンワース680)を開発する為に戦略的パートナシップを形成したとの事です。その為、PACCARの自動運転のプラットフォームはAuroraの自動運転技術と統合されるとの事です。この製品は今後数年間で納品される予定となっています。

 

Auroraは自動運転でかなりいい位置に立っている、非常に有望なスタートアップ企業です。テスラやグーグルなどの元社員によって設立されていると聞くだけでも非常に期待できると考えていいでしょう。

 

夢と消えたUberの自律走行車と、技術を引き継ぐオーロラの野望

https://wired.jp/2020/12/09/uber-gives-up-self-driving-dream/

 

 

米アマゾン、元グーグルのスターらが設立した自動運転企業オーロラに投資

https://jidounten-lab.com/w_amazon-aurora-investment

 

  

CASEは基本的に、DXが前提になっています。DXは端的に言うと、デジタル化されるという事ですよね。という事は、運行データなどが全てデータで収集できるという事です。コネクトされている。オートモーティブとなっている。シェアできる。その為にエレクトリックカーとなっている。そのすべては、全てをデータで収集でき、ビジネスモデルを高速で改善させることができるという所に集約できます。

 

つまり、今後、このEVトラックが販売されれば販売される程、PACCARはAuroraのデータを通して、様々な問題点を改善していく事が出来るようになっていく事です。

 

これはテスラやニオを見ているとよく分かります。テスラは通信を通して、ソフトウェアをアップデートする仕組みとなっていますし、ニオは車だけでなく、様々なモノを一元化するプラットフォームとして提供しています。これらは全て、データを通して、顧客体験を高速で改善していく為に必要なプラットフォームを構築しているという事です。

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https://www.paccar.com/media/3073/4q20-investor-presentation.pdf

 IT投資も惜しんでいない

PACCARは恐らくこれを理解していて、40万を超えるケンワース、ピータービルド、DAFなどの接続サービスを強化すると言っているのでしょう。

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https://www.paccar.com/media/3073/4q20-investor-presentation.pdf

 

このスライドの最後の文章では、PACCARはイノベーションセンターというものを保有しており、先進的なテクノロジーを統合する為のツールがすべて揃っているという記載が見られます。また、PACCARはアメリカ、オランダ、インドにテクノロジーセンターを有しており、ソフトウェア開発、コネクティッドカーを加速させているという記載が見られます。

 

以上のような記載から考えると、PACCARはCASEの重要性を理解しており、自動運転の部分はより得意な企業に任せるものの、着々と生き残りにかけて準備を進めているように見えます。

 

この投資を裏付ける財務は、PACCARの高い利益率

さて、ここまでPACCARは破壊的イノベーションを達成することができるのか?について見てきました。ここまで確認したところによると、PACCARは充分にその将来を見据えて、着々と準備を進めているように見えます。

 

自動運転や、チャージステーションは協業で進めて行こうとしている事から、自分たちに不得意な部分は得意な相手に任せてしまおうという、自分たちの得意不得意もよく把握しているなという印象を受けます。

 

1点気がかりな事は、EVとガス車の構造は全く異なるのではないかという事。つまり、EVをつくるという事は、全く別の工場に投資が必要なのではないかという懸念です。

ここは正直専門分野ではないので分かりかねますが、割と継続的に投資金額がかかるのではないかと思われます。

 

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https://www.paccar.com/media/3073/4q20-investor-presentation.pdf


 

この点、PACCARは他のトラックの企業と比べてかなり営業利益率が高いようです。その原因は販管費比率をかなり抑える事が出来ている事が挙げられます。他の企業が平均売上比8~15%の販管費が掛かっているのに対し、PACCARは3%程度に抑える事に成功しています。また、他社と比べて在庫回転率もとても高いです。

 

キャッシュの創出能力はかなり高いと言えるでしょう。自己株式の買入の影響で2011年からは借入も起きていますが、今後の事業転換を行う分には問題がないレベルといえるでしょう。

実際、営業CFの総出力はかなり高く、右肩上がりを続けている状況にあると言えます。

 

この事から、PACCARは事業構造の転換を図る事は、決して不可能ではないし、その下地は充分に整っているのではないかと思います。

 

ただ、この記事は依然として片手落ち

さて、株価が現在の業績に連動しない事。今後株価が伸びるとすると、破壊的イノベーションイノベーションを興せるかどうかにかかっている事。

PACCARはそのビジョンが見えていそうだという事、財務的にも、ビジネス的にもそのようなイノベーションを起こす下地はあるように思える事について見てきました。

 

個人的には、かなり有望な企業なのではないかと思います。

しかし、この記事は以前片手落ちです。というのも、他のトラック企業の分析を行う事が出来ていないからです。他のトラック企業はどこまでケースを見据えた投資を行っているのでしょうか。EVシフトだけでなく、データを完璧に取り切るという戦略を立てている企業はいかほどでしょうか。それらの企業は、実際にその大規模なイノベーションを起こすことができる下地はあるのでしょうか。

 

これらが今後検討材料として必要になってくると思います。しかし、この企業単体としてみた時には、充分に魅力的で、投資価値がある企業なのではないかと思います。今から一週間後、決算発表がありますね。それまでに、他の企業も調べられたら調べ、最後のそのプレゼンテーションを見てみて、PACCARに確信を持てたら、ガッツリと入ってみたいと思います。