フィットネス業界のApple,NetflixであるPelotonの強さの源泉とは?
Peloton(ティッカーシンボル:PTON)は自宅でエクササイズを可能とする企業です。具体的には、オンラインで配信されるレッスン動画を専用のエアロバイクやランニングマシンを使い、ハードウェアとコンテンツの販売を行っています。
まずはハードを売り、そこに付随する画面から発信されるコンテンツの販売で継続的に追加の収入を得る、というモデルですね。
テクノロジーでオールドエコノミーに対する破壊を仕掛けているという意味では、AppleやNetflixといったプラットフォーマービジネスであると言えるでしょう。
また、このモデルは基本的にフィットネススタジオを必要としません。結果、BSが非常に軽くなるばかりでなく、運転資金も軽くて済み、グロースしやすいモデルとなっています。更に言うとこのビジネスモデルは、Pelotonの売上の内訳に大きな影響を与えているように見えます。
今回は、Pelotonの売上の分析を行い、Pleotonのビジネスモデルや強みを見ていく事にしましょう。
■Pelotonのマクロの売上分析(単位はMiliions:USD)
●マクロ分析①コロナが大きな追い風になっている
まずはPelotonの売上の内、マクロ的な分析を行います。マクロでみると、コロナがPelotonにとって如何に大きな追い風であったかがよく分かります。
●Pleotonの年間売上高は2020年に加速
まずは年間決算を見てみます。売上はConnected Fitness ProductとSubscriptionに分かれています。まずこの事から、Pelotonはハードウェアの販売と、コンテンツの販売の両方から売上を得ている事が分かります。特にハードの売上は目覚ましいものがあります。
2020年も大きく売り上げを伸ばしていますが、QoQで直近の業績を見てみると、2021年期の方が売上はさらに加速している事が分かります。
●Pleotonの直近のQoQの売上高はさらに加速
2021Q1のハード販売は601M$、Q2は870M$と、四半期のYoY比較で+374%、+224%。まさに異次元の成長と言ってもいいのではないでしょうか。
しかし、このように大きく売上を伸ばした理由は、コロナの影響が大きいと考えられます。この2021Q2の決算は、2020年の12月時点での業績です。この時、米国はコロナ感染者がピークを迎えていました。
●売上のピークは米国のコロナのピークとぶつかっている
米国のコロナ感染者を見てみると、このPelotonが異次元の決算を出した時にはまさにコロナが猛威を奮っていた時と重なっていますね。ここからワクチンの急速な摂取により、コロナ感染者は急速に少なくなっています。
これはかなり意識せざるを得ない情報です。下図はPelotonの国別の売上ですが、これを見ると売上の殆どがアメリカである事だけでなく、コロナ禍中での売上の伸びのメインもアメリカである事が分かります。
●マクロ分析②売上の大半はアメリカで上げている=リオープニングで売上成長にダメージを負う可能性も。
つまり、現時点ではPelotonが成長するも衰退するも米国次第、という事です。この事を素直に見ると、Pelotonの売上は、今後伸びていかないのでは?という事が想定されます。
アメリカではコロナが猛威を奮っていて、多くの人が自宅で待機を余儀なくされていました。その為、今後リオープニングとなった際には多くの人が外に出て、フィットネススタジオに通い、Pelotonのハードの売上が下がるというシナリオは想像に難くないでしょう。
●Pelotonにとってチャンスになる可能性もある
しかし、Pleotonにとって楽観シナリオも、2つ考えられます。1つは多くのフィットネススタジオはコロナを耐えきれず、店舗の閉鎖を行っている所も多い為、結局Pelotonがその恩恵を被り、中長期で見て売上を伸ばしていくというシナリオです。
2つ目のシナリオは、海外の販売比率を増やしていくというシナリオです。海外はいまだにワクチンの接種が増えておらず、またモデルナやバイオンテック、ファイザー以外のワクチンは生産が滞っている事から、すぐに世界経済がコロナから回復する可能性が低いからです。
悲観シナリオと楽観シナリオの①はどちらにも転ぶ可能性があるとおもいます。
しかし、2つ目の楽観シナリオである海外進出は、現時点では可能性が低いと思われます。Pelotonは、リテールとロジスティクスを自社で行っています。そして、今Pelotonのリテールは米国内だけでもパンパンであり、納期が延びてしまう事によってキャンセルが起こっている状況です。このような状況の際に、更に構築の難易度が高い海外への進出は難しいように思われます。
これらを考慮すると、コロナ感染者が少なくなっている次の決算で、Pelotonの売上成長率は伸びるのか?それとも落ちるのか?が非常に重要です。特に、Pelotonのハードの売上がどうなっているのか?を確認する事は非常に重要ではないかと思います。
このヒントとして、そもそもPelotonのサービスは顧客から受け入れられているのでしょうか?その手掛かりを、Pelotonの売上のミクロ分析から確認してみたいと思います。
■Pelotonのミクロの売上分析
●サービスは”明らかに”顧客に受け入れられている
Pelotonのサービスが顧客に受け入れられているのか?について見ていく為に、ミクロの売上分析を行っていきましょう。 個人的には驚くほど受け入れられているのでは?と思っています。
■ハードの売上分析
●ハード分析①コロナでの伸びはマーケティング費用をジャブジャブに投下した事が原因ではない
まずはハードの売上の分析を行います。
●ハードの売上高は右肩上がり
このハードの売上をCACに分解してみましょう。ハードの平均単価を2000$と仮定して、販売台数と、1販売台数にたいするマーケ費用でCACに分解すると、CACが一気に改善されていることが分かります。
●CACが一気に改善されている。
CACが改善しているという事は、同じマーケティング費用でもそれに反応する人の数が増えています。ここから読み取れることは、Pelotonは確かにコロナ禍中に大幅に売上を伸ばしたのですが、「マーケティング費用をじゃぶじゃぶ突っ込んで売上を無理矢理伸ばしたのではない」という事です。
これは、売上の伸びが継続する可能性を示唆する指標と言えるかもしれません。ちなみに、このハードの効率性の改善はPelotonにとって非常に有益です。この指標が改善された結果、利益もしっかり出るようになっているのです。
●ハード分析②1台当たり粗利>CACとなった結果、利益が出る構造に
Pelotonのハード販売の売上と原価を見てみましょう。すると、ROKUなどとは違い、ハードでしっかりと粗利を確保するタイプの販売方式である事が分かります。
そして、1台当たりの粗利が増え、CACが改善された結果、「1台当たりの粗利>CAC」となっています。
これは、マーケティング費用はサブスクで回収せずとも、ハードの販売の時点で回収できているという事を示しています。
2020Q4からPelotonは営業利益で黒字転換したのですが、その背景は、恐らくこのハードの1台当たりの粗利とCACの関係の逆転が大きいです。
■サブスクリプションの売上分析
次にサブスクリプションを見てみます。
こちらの売上は安定して伸びていっています。まさにサブスクリプションですね。
●サブスクリプションの売上
これらの売上の質がどうなのか?について、分析していきたいと思います。
●サブスク分析①顧客エンゲージメントは非常に高い
基本的にPelotonのユーザーのエンゲージメントはかなり高いと思われます。FY2016~FY2020のコホート別の月間ワークアウト数です。なんと、毎回月当りのワークアウト数が伸びていっています。新しい顧客ほど、Pelotonを気に入ってよく使っているという状況です。
これはPelotonがコミュニケーションを重視している表れでもあり、Pelotonの強みを象徴する指標の一つと言えると思います。売上の質が非常に高いという事です。
なぜこれほどエンゲージメントが高いのか、ヒントはサブスクリプションの財務構造にも隠されています。
注目したいのはサブスクリプションの売上にも、しっかりとコストがかかっている点です。この費用はコンテンツ制作費やインストラクターの費用だという記載があります。
● サブスク分析②コストをしっかりと掛けてコンテンツを製作している
サブスクリプションは基本的にデータ配信なのに割とコストがかかっている理由は、コンテンツを充実させようという意図があると思います。
現在確認できるだけでもこれらのコンテンツが揃っており、この部分の投資をしっかりと行い、顧客満足度を上げていこうという意図があるのでしょう。実際、年々バイクだけでなく、その他のコンテンツでのワークアウトの比率も増えてきており、これらのコンテンツへの投資の効果は充分にあるように思われます。
コンテンツを充実させようという意志がPelotonのサブスクリプションの損益構造からはしっかりと現れてきています。これらに加えて、コミュニケーションを重視したり、ブランディングをしっかりと継続出来ている部分が、Pelotonの売上だけでなく、エンゲージメントを支えていると思います。
●サブスク分析③KPIは月間ワークアウト数とチャーンレートの関係性は注視する必要が
さて、そんなサブスクリプションですが、「Average Monthly Workouts per Connected Fitness Subscription」は注意してみておく必要があるかと思います。
これはサブスクリプション当たりの平均月間ワークアウト数です。それまでは多くても突き当たり約10回程度のワークアウトでしたが、コロナ禍中ではこれが跳ね上がり、直近では月20回程度行われています。
明確にコロナ禍中は跳ねているこのワークアウト数ですが、リオープニングの際にはどのように推移するのか、非常に注目のKPIと言えるでしょう。
外に出られるようになり、忙しいのに月に20日もワークアウトを行うのは現実的ではないように思われるのですが、ここのワークアウト数が減ったとしてもサブスクリプションの解約率が減少しないかどうかが注目ポイントと言えるでしょう。
現在はチャーンレートは0.5%~1%の間を推移しています。購入方法の要件もあり、基本的に解約率は非常に低く推移していますが、これがワークアウト数の減少と共に切りあがってくるなら要注意かと思います。
以上、Pelotonの売上の構造について見ていきました。
コロナ後にどうなるかがまだ読めない企業ではありますが、これらの数字を勘案すると、非常に優良な企業では無いかと私は考えています。今後の財務の分析も継続して進めて行きたいと思います。