Finance Record

一旦理由があって廃止したFinanceRecordを復活させています。企業のビジネスモデルとファンダメンタルズを紐づけて分析しています。

Zoominfoのビジネスモデルの強みと、そこから現れるファンダメンタルズについて。

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今回はZoominfoの分析を行いたいと思います。コンテンツは以下の通りです。

 

まずはZoominfoの基本的情報とビジネスモデルをおさらいしておきます。

 

■Zoominfoの基本情報とビジネスモデル

ZoomInfoは、営業やマーケィング向けに精度の高い顧客データを提供するプラットフォームです。Zoominfoのビジネスモデルの根幹を端的に示す図はこちらでしょう。

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https://ir.zoominfo.com/static-files/55dcfb16-1fc2-491e-96ec-b5ce522a69c1

 

Zoominfoは、様々なデータソースから正確な顧客データを自動で作成し、提供するサービスを提供しています。Zoominfoのデータソースは、秘匿性の高い情報ではなく、例えばニュース。例えばウェブサイトの訪問者。例えば企業データ。転職情報など、誰でも取得できるデータが基盤となっています。

 

 

誰でも閲覧できる情報なのに、どのように付加価値を生んでいるのかというと、人工知能 (AI) と機械学習技術 (ML) を活用することで、何十億もの生のデータイベントを処理し、簡単に使いやすいデータに自動で整形しているのです。これは、例えばLinkedIn等の様に秘匿性の高い情報が入っているプラットフォームではできない事です。つまり、Zoominfoはあえて秘匿性の低い情報をターゲットとすることにより、情報を自在に加工できるという付加価値が生まれてくるのです。

 

この結果、Zoominfoでは、データはリアルタイムで最新の状態に保たれています。これにより、顧客がアクセスする雇用情報の少なくとも95%が最新の状態であるそうです。

 

この様な特徴により、現在は、約 250,000 人の有料ユーザーが、

・最適なターゲット顧客の特定

・適切な意思決定者の特定

・継続的に更新されるリードと企業の予測スコアの取得

・ターゲット企業の購買シグナルやその他の属性の監視

・適切なメッセージの作成

自動販売ツールによるエンゲージメント

・取引サイクルの進行状況の追跡

 

など多種多様な目的で、Zoominfoを活用しています。

 

 

■Zoominfoという企業が必要になってくる理由とは

なぜ、Zoominfoの様なビジネスが必要になってくるのかをもう少し深掘りしてみたいと思います。一般的な企業であれば、顧客リストと見込み客のリストがあると思います。そのリストに対して、セールスを行います。

どの企業にとっても、セールス&マーケティングは企業の成功を決定付ける基本的な機能である為、企業は通常、営業・マーケティング活動に多大な費用を投じています。


しかし、Zoominfoによると、実際には、営業担当者が営業活動に費やす時間は全体の3分の1に過ぎません。

 

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https://ir.zoominfo.com/static-files/55dcfb16-1fc2-491e-96ec-b5ce522a69c1

 

これは、顧客データの性質からくるものです。顧客リストや見込み客リストは、作った傍から古くなっていってしまいます。顧客のデータと言うのは、例えば担当者が変わったり、企業がM&Aにあったり、新しい企業が出来たり、無くなったりと、日々変動していくものです。

その為、営業担当者は営業前に、データ入力や整理を行います。これが中々の手間で、結果として、営業担当者は、営業の前段階に全体の2/3もの時間を費やさなければならない事態に陥ります。

 

更に、この様なデータの非効率性は、次の様な問題となって表れてきます。

1)いざリストを見ても、意思決定者を見つけるのが難しい。
2)エンゲージメントのタイミングがわかりにくい。
3)データに基づいたターゲットの優先順位付けができない。

 

Zoominfoを利用すると、担当者は、自社の企業の中にあるデータだけでなく、様々なデータソースから顧客のデータを最新に保ち、リアルタイムでアップデートしてくれます。これは、営業活動の前工程の2/3の作業がなくなる事を意味します。

 

 

具体的にサービスを見ていくと、「連絡先の有無」「社名」「所属している地域や国家」「肩書」「部署」などで絞り込みを掛けられます。データソースからクエリで抽出していくイメージです。

 

例えば、「日本」の「メールアドレスを公開している」、「○○業界」の「マネージャー」で、「○○部署に所属している。」等のソートを掛けられます。その出てきたリストを、Excelにエクスポートしたり、セールスフォースなどの他のプラットフォームに流す事が出来、営業担当は自身の営業活動に注力することができるという訳です。

 

企業の営業活動に必要不可欠でありながら、非常に煩雑で付加価値を産みにくい部分を自動化し、確度の高いセールスを行う事が出来る様になる。これがZoominfoのビジネスモデルの強みになる部分だという事が出来るでしょう。

 

■ZoominfoのPLとKPIは非常に堅調

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売上は順調に増加

Zoominfoのビジネスモデルを確認したので、ファンダの内容を確認してみましょう。

まずは売上周りの数字です。直近の四半期売上は222.3M。売上成長率はYoYで159%を記録しています。

この売上増加の背景として、顧客数は年間10M$以上の支払顧客が1,452社に増加しているだけでなく、NNR(既存顧客の売上の増加)が116%に拡大している事が挙げられます

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つまり、Zoominfoは顧客が順調にアップセルしていく上に、新規顧客の獲得数も増えるというパターンを構築できている事が分かります。ビジネスとしての強さが鮮明になっていると言えるでしょう。

 

・ユニットエコノミクスが異常な次元に

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ちなみに、もう一点Zoominfoの強さを示すデータがあります。これはZoominfoの四半期決算のプレゼンテーションですが、左下に、LTV/CAC>10Xという記載が見えます。これは、1社顧客を獲得するコストに対して、生涯利益で10倍のリターンが返ってくるという事を示しています。

まだまだ拡大期にいると思われるZoominfoが既に利益を出す事が出来ているのは、この様に「顧客を獲得すると、10倍の額となって回収できる」ビジネスモデルであるという事が現れているように思います。

 

また、この数字は通常、3Xであれば優秀であると言われているので、10Xが如何に物凄い数字なのか、その背景にあるZoominfoの提供するサービスが如何に優秀で効率的な営業を可能にしているのかという事が非常によく分かると思います。

 

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Zoominfoの利益構造

次にZoominfoの利益構造を確認してみます。

・粗利率が高いのはビジネスモデルのおかげ

Zoominfoは前述の様に既に利益を売上比で10%~20%程度出す事に成功している会社ですが、それを可能としているのは高い売上総利益率です。

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売上総利益率は、2020/6/30期こそ60%台に落ち込んだものの、その後は80%台と高い数字を保っています。ここには直接費用の他、研究チームの人件費などが含まれます。Zoominfoは収集しているデータは秘匿性の高い情報ではなく、ニュースやウェブサイトの訪問者、企業データ、転職情報など、誰でも取得できるデータをAIで取り込み、データソースにしているので、この部分に多額の費用が掛かってこないのです。データの整形はAIで行っているので、基本的には非常にコストが軽く済むのは、この様な粗利率の高さが証明してくれている様に思います。

 

・営業費用はほとんどがマーケティング費用だが、これは正当性のある支出

次に営業費用ですが、これはマーケティング費用がほとんどを占めます。

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これは正当化できる費用です。なぜなら、先ほど確認したように、獲得した顧客のNNRは増加しているし、LTV/CACは10Xになるからです。

しかも、顧客が増えれば増える程、Zoominfoは精度の高い顧客リストを出す事が出来る様になります。事業を拡大していけば、ネットワーク効果によって、ライバルに対して更に差をつけることが出来る様になります。このまま順調に拡大して来ると、この費用を更に掛けることが出来、成長はさらに加速していくという好循環を生む余地は十分にあるでしょう。

 

加えて、Zoominfoのビジネスホテルは、裏を返せば、「どこにでもあるデータを抽出し、綺麗にして提供するだけ」なので、ライバル企業の参入障壁が低いと言っていいと思います。その為、成長フェーズでは出来るだけマーケティング費用を掛け、一気に成長していくという戦略は何ら間違っていないと思います。

 

■Zoominfoのキャッシュフロー

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CFは若干特殊

次にZoominfoのキャッシュフローを見ておきましょう。

・営業キャッシュフローは若干特殊

Zoominfoの営業キャッシュフローは若干特殊で、営業利益が継続的に計上されつつも、支払利息の計上や、法人税の支払いなどで純利益は増減しています。これはZoominfoの組織形態の問題も大きいので、現段階では考慮に入れなくてもいいかなと思います。

 

料金形態はSaaSなので、売上が増えれば増える程増加しています。基本的には物凄く強いキャッシュフローを有していると思います。

 

・大きな投資の際には資金調達を行っている。

とは言え、全体で見ると、この営業キャッシュフローはまだまだインパクトが大きくありません。

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2019/3期、2021/9期にいずれも大きい買収を行っていますが、その資金を営業キャッシュフローで賄えるかと言うと、そうでは無いようです。

その際には負債発行を行っています。今後も多額の買収を行って行く可能性は大いにありますが、この資金調達方法であれば、このまま順調にZoominfoが成長していくとするなら、キャッシュフローでは問題が出てくるという程ではないのでしょうか。

 

■終わりに

以上、Zoominfoの財務分析を行ってきました。

参入障壁が低いという問題はあるものの、それを補って余りある経済性と、成長率を兼ね揃えていると思います。AIを利用する事によって、これだけアクセルを踏んでも利益を創出する事が出来る企業があるというのは、非常に重要な事実だと思います。

 

ITやAIを利用するという事がどれだけ重要なのか、ちょっと自社でも振り返らないといけないと思うレベルの凄さです。今後とも、この企業には注目しておきたいと思います。