Finance Record

一旦理由があって廃止したFinanceRecordを復活させています。企業のビジネスモデルとファンダメンタルズを紐づけて分析しています。

Appleの財務分析①キャッシュフロー計算書と株主資本主義

このブログでは、普段知っている有名企業の財務面に焦点を当てて、ニュースだけ見ても気が付かないような側面を探っていく事を目的にしたブログです。

 

 

初回はAPPLE(以下「アップル」)です。

 

アップルのお金の使い方を見ていきましょう。

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何故一番最初にここを確認するかと言うと、ここを押さえていないと、現在のビジネスモデルの理由も今後の動きも、予測もできなくなってしまいます。

 

 

というのも、アップルのお金の主要な使い先は製品開発ではありません。

アップルは株主資本主義に非常にマッチしている企業です。アップルの時価総額は2020年11月時点で現在世界一。これは、アップルの時価総額は、製品が素晴らしいというだけではない事を示しています。

  

もちろん、アップルの製品自体は素晴らしく、非常に利益率も高いです。日本でトップで営業利益を稼ぐ企業3社は通信会社大手が独占しているのですが、この3社を合わせてもアップルの営業利益には到底届きません。それくらい素晴らしい企業なのは間違いないのですが、時価総額世界一になっている理由は他にもあります。

 

何故そう言えるのか。今回の記事ではこれを確認し、その後、じっくりとアップルのビジネスの中身を見ていきたいと思います。

 

アップルのCF計算書を見ると、お金の主要な使い先は製品開発ではない

 さて、財務分析で企業の実態を切り取る事を主軸に置くとすると、まず最も重要なのはCF(キャッシュフローです。

 

キャッシュフローは、その会社がどこにいくら使って、どこから回収しているのかを見つけることができる指標なので、地味ですが超重要な書類なのです。

 

とっつきにくいですが、グラフなどを用いて直観的に理解すればOKだと思います。では早速、アップルのキャッシュフロー計算書を見てみましょう。

 

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黒い部分は現預金。現金の増加は青、マイナスはオレンジです。感覚的につかみやすいように日本円に換算しています。(1$=105円)

 

まず一番左。2020年Q4は、手元のキャッシュは5兆2735億2千万円。税金を引いた後の当期純利益は6兆281億5500万円稼いでいますね。で、そのお金を一体何に使ったのか。グラフにすると顕著ですが、大きく資金が増減している部分が二つある事がお分かりいただけると思います。

 

↓アップルの資金の使い道は大きく2つあるのが見てとれる

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この資金の動き、左の部分は「有価証券の売買」、右の部分は「配当金の支払、普通株式の買戻し」です。資金が大きく動いているものの二つとも、アップルの製品には関係のない部分ですね。

 

アップルの資金の殆どは有価証券に変わっている

まず有価証券から見てみます。

 

有価証券の売買は、投資が12兆684億9千万円、回収が有価証券の満期が7兆3413億9千万円、売却が5兆2996億6500万円の合計12兆6410億5500万円です。(この金額も1$105円換算です。)

 

莫大な金額が動いています。

 

アップルはその内訳が開示されているので見てみましょう。こうやって見てみると、アップルは自社で保有している現金の殆どを金融商品に回している事がよく分かります。

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マネーマーケットファンドは米国の短期の投資信託。他も政府系の証券。社債も非常に多いですね。金融商品と聞くと割と危険なイメージが付きまといますが、アップルが保有している金融商品はほとんどが安全性の高いもの。

 

投資額に対して、含み益が少ない事、含み損の方が多い投資先が一件もないことから、それがよく分かると思います。ちなみに、含み益を含めた現預金の残高は20兆1421億5千万円です。一国の国家予算並みの資金が本当に一企業の中にあるのは少しビックリですね。

 

圧倒的現預金を保有するアップルですが、ただ一点。気になる部分があります。アップルの当期の純利益率は20%を超えています。これに対して、この社債などの購入からくる含み益は1~2%程度。

 

なぜ、アップルは現預金の殆どをリスクが少ない投資先に回しているのでしょうか?

 

リスクが少ないとはいえ、本業に対して、かなり利益率が低いですね。これを投資に回して、更に成長を目指さないのか?

 

世界は今の所、株主資本主義で動いている

これをしない理由に、もう一つのお金の使い方があります。そしてこれが、アップルの株価が世界一になっている理由でもあります。

 ↓もう一つのお金の使い方は、配当金の支払い及び自己株買い

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アップルは株式を買い戻さなくてはなりません。この右側の金額の大半は自己株買いです。一年で、なんと7兆5970億円もの資金を自己株買いにあてています。

 

現状、世界は「株主資本主義」と呼ばれています。これは、会社は株主のものだという価値観です。

 

株主は、投資した株に対して、それ以上のリターンを求めます。これは当然なのですが、例えば10年で物凄く多額の利益を上げたとしましょう。

 

そうすると、「本当によくやった。次は9年で同じ利益を上げるんだ。」「投資してより多くの利益を上げるんだ」と株主から言われます。そして、次は、5年、3年、、、と続いていって、株主の要求はどんどん大きくなってくるそうです。

 

そして、その利益を上げられないのであれば、投資先が見つからないのであれば、株主に還元しろという圧力になります。結果的に多額の株主還元が行われるのです。

 

この様な圧力が働かない場合には、通常は自社で製品を開発するのですが、現在のような株主資本主義においては何年もかけて研究開発を行うのは現実的ではありません

 

研究開発によって本気で製品開発を目指そうとすると、数年かけて開発し、数年かけて回収していきます。この「投資→回収」のスパンは、株主が待てないのです。

 

なので、稼いだ利益は株主還元しろという圧力になるのですが、実際、アップルの自己株買いの金額の大きさは、当期純利益の額を超えています。

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株主資本主義の力の強さがうかがえるのではないでしょうか。

ただ、一点注意して頂きたいのは、この動きは何もアップル特有のものではありません。ただ、アップルはこの動きが割と顕著なのです。

 

アップルの事業は転換点にある。

とは言っても現状を見ると仕方ないかもしれません。アップルは、その企業思想からか、基本的には製品自体は多くありません。

 

アップルの商品はiPhoneを中心にiPadAirPods。AppleWatchといった商品が中心となり、それ以外の製品はほぼ見当たりません。もちろん毎年商品発表を行っていますが、現状それほど多額の資金が必要なハード面の投資は必要ないでしょう。

 

このように新規の投資先が見つかっておらず、また、投資先があったとして回収の可能性が十分見込めるようなものでなかった場合、やはり先の理由と同じくして、多額の資金を投下する投資は難しいと言えます。だからこそ、潤沢なアップルの資金は、製品開発に向けられるのではなく、株主に向けられているという構図となっているように思えます。

 

ただし、アップルの事業自体は転換点にあります。アップルはハードの開発ではなく、ソフト面の注力を推し進めています。この転換を行う背景は、中国企業の台頭や、他企業との争いがあると思われます。ここで資金を投下する。具体的にはM&Aを行う可能性はあります。

 

M&Aは、企業を買収し、その企業の売上や利益をくっつける事を意味します。自ら投資し、回収して利益を得るのは時間がかかりますが、M&Aは成立すれば一気にその企業の利益が自社のものになります。現状自社で利益をすぐに増やし、株主を納得させる分かりやすい方法です。

 

次回の記事では、上記株主資本主義を踏まえて、アップルのビジネスモデルと現状、今後なぜソフト面に注力していくのかを見てみたいと思います。